畳は表(おもて)と床(とこ)そして縁(へり)からできています。
その畳の芯になる床(とこ)は昔は藁で作られていました。
現在床の材質は簡略化され、スタイロフォームを木質ボードで挟んだものが席巻しています。
少し品質のいいもので、スタイロの上下を藁で挟んだもの、
昔ながらのオール藁の床はほとんど作られいないというのが現在の状況です。
能登デザイン室では田んぼを作っており、ハザ干しで稲を乾燥させているので藁の束が残ります。
(※コンバインで刈って乾燥機で乾かすという現代の収穫方法では、
稲を刈ったと同時に藁は粉々にされて田んぼに落とされるので藁の束は残りません。)
どうせならその藁を使って畳床を作ってしまおうという発想で始まったアテイエの畳作りです。
製造は七尾市鵜浦町にある松本製畳さんにお願いしました。
2年分の稲藁を保管し乾燥させてから使用します。
ベルトコンベアの上で藁を縦横5層に敷き詰めていきます。
二層並べた後に機械で細切れにした藁も撒いて密度を高めます。
壁には藁の並べ方のチェック項目が・・
かなり年季の入ったものです。
均一な厚さになるように気を配って丁寧に並べます。
機械でもう一列重ねられた稲藁、
この時点で厚みは約30センチ、これを5センチの厚みまで機械で圧縮します。
圧縮した藁を機械が一気に縫い上げていきます。
両端には角の補強のためゴザが一緒に縫い込まれます。
縫い上げると同時に側面の幅を決めて余分を切り落としていきます。
長さ方向も機械が自動で寸法を出しカットします。
この畳床一枚で30キロの重さがあります。
ここまで藁が圧縮された断面を見てください!
触ると堅そうですが、座ってみると藁床の畳は弾力があって座り心地もいいのです。
スタイロフォームの床とは厚み、弾力性、吸放湿性すべてが別物です。
何より藁の香りが個人的にはリラックスできてたまりません。
ここで畳屋の松本さんからのサプライズ。
畳表もせっかくなので手縫いしましょう!というご提案を頂き、
さらには家族全員で縫ってみませんか?というお話も。
松本製畳さんでも、今では手縫いで畳を製作することはほとんどないそうです。
そのため、金沢の職人学校で技術の習得をし、日々技を磨いているのだそうです。
まずは、畳床のサイズを切り揃えます。
ここでいよいよ畳表になるい草の登場。
今回は縁なしの、いわゆる琉球畳とするため、い草も特別に丈夫な「七島イ(しっとうい)』と呼ばれるい草を使用する必要があります。
本来「七島イ(しっとうい)』は、大分県の国東地方だけで生産されているものなのですが、
最近ではい草自体ほとんどが中国からの輸入品、「七島イ」は大変貴重で高価なものです。
丈夫な理由はその断面形状です。
通常のい草は丸断面をしていますが、七島イは三角、三角は構造的に非常に強いのです。
水で濡らしながら、しっかりと折り目を付けていきます。
畳表を畳床にのせ、仮止め。
そして、縫う作業が始まります。
畳床は藁がかなり圧縮されて出来ている為、とっても堅いのです。
そこで、こんな道具がありました。
太い針と、手の平に梁が食い込まない為のクッション。
これを使ってまずは四隅から縫い始めます。
その最初の縫う作業を、家族でさせて頂きました。
職人さんの指導のもと、父が縫い、長男が叩く。
次男は見るだけ。
やってみるとかなり大変な作業でしたが、
とても良い記念になりました。
後は職人さんに最後まで仕上げていただきました。
道具にも惚れ惚れ。
数日後、シーンはアテイエの建築現場。
和室のクライマックス、畳の納入です。
縁なしの畳表、<い草>の表情がとても奇麗で草の香りが漂っています。
横で縫ってとめた<い草>を裏で束ねてあるのでさらに厚みがあります。
松本さんがこの日の新聞をいろいろ買ってきてくれました。
何年後かに畳を上げた時に当時のことが分かって面白いのだそうです。
うちは床もあがっていて、湿気も来ないので、外に出して干したりといったメンテナンスは必要がないだろうということでした。
大事に使えば5、60年もつということなので生きているうちに畳を上げることはないかもしれない・・
そしていよいよ畳をいれていきます。
この畳を入れるのも簡単ではありませんでした。
何しろ自然に生えている藁と草でできたものを四角い敷物にして並べようというのですから、
よくよく考えてみるとこの畳というやつはとんでもない手間のかかるものです。
ピッタリハマるパズルのようにはいかず、
角を叩いたり蹴っ飛ばしたりして全体を調整しながら一枚一枚納めていきました。
最後の一枚も無事納まり、
無事和室の完成です。
畳表の青さと香りがとてもいい心持ちにしてくれます。
表がだんだん馴染んで柔らかくなり、どんな古びかたをしていくかというのもとても楽しみです。
和室の壁紙(仁行和紙)に続く・・